自伐型林業 / Café

自伐型林業家であり、四万十川沿いで Café を経営されている久保田夫妻は、移住サポーターとして県に委嘱を受け、四万十市の移住推進にもご協力いただいている心強い存在。四万十市に来る前は東京の同じ職場でマーケティングリサーチの仕事をしていた。

高知県には縁もゆかりもなかったお2人が四万十市への移住を決めたのは、40代半ばを迎えた頃。

移住を考えたきっかけは?

久保田さん:「最初から四万十市を目指していたわけではないんです。東京にずっと住んでいて地方の暮らしを知らなかったので、もっと日本の事を知りたい、様々な暮らしがあることを知りたいと言う好奇心から地方の暮らしに目を向けた時に、様々な課題や問題があることが見えて来て、その一つが林業でした。人生の中で、後の世につなげていけるような仕事として、林業、森林の問題に自分が関わることができたらと思い始めていました。そんな中で、環境にも配慮しながら、小規模で長期的な森林経営を目指す自伐型林業というものがあることを知り、それを目指したいと思いました。

四万十市を選んだ理由は?

久保田さん:まず、自伐型林業が芽生え始めている高知県に絞って考えました。その中で四万十市を選んだのは、直感的にここの環境が気に入った事と、もともと林業だけで食べていけるとは思っていなかったので、観光地でもあることで人の流入も多いので何らかの副業も起こし易いのではないかと思ってここに決めました。移住を決めてから空き家探しで移住者面談を受けて物件をいくつか案内して頂きましたが、最終的には林業仲間に紹介してもらった家に入りました。

林業を始めてみてどうでしたか?

久保田さん:まったく林業経験もなかったし、道具の使い方もわからない状態でしたが、やっていく中で、意外とできるなっていう手ごたえはありましたね。

だた、一番の課題は施業場所の確保ですね。放置されている山林は山ほどありますが、里山に近いところほど所有者が細分化されていたり、山の境界も分からなくなっていたり、難しい問題もいろいろあり、地縁も実績もない移住者の我々が条件の整った施業場所を確保するのは簡単ではありません。

地域の林業仲間と【はたフィールズ】という団体をつくって事業者登録し、地域の山を集約して施業できるよう行政に働きかけをしたりもしています。

大事なことは、いかに続けていけるかですね。その為に施業地を確保したいと思っています。

続けていく為には経済性も考えなければなりませんが、ただ「効率よく木を切って出せばよい」ではなくて、自然や環境にも極力配慮したいですしね。行政に働きかけると同時にやらなければならないことはたくさんありますが、本当にコツコツとやっていくしかないですね。

辞めたいと思うことは?

久保田さん:しんどいなと思う事はあっても、不思議と辞めたいって考えたことはないですね。

個人でやっているので、その時々の状況で調整できるし、時間的制約も少ない、自分の裁量で色々出来ますしね。

続けられなくなるとしたら施業場所が無くなったときですね。

七海さん:もどかしい思いはすごくありますね。放置されている山を、何とかしなきゃいけないと思っている人も、何とかしてほしいと思っている人もいるのにそれがうまくつながらない。

久保田さん:山に入っている時期(主に秋~冬)は心身ともに元気なんですよね。山に入っていない夏の方が落ち込んでいます(笑)やりたいことができないと何らかのフラストレーションがたまってくるのかもしれないですね。

七海さん:山に入らなくてもこれだけの自然があるのにね。そばで見ていると山の中に入るっていうのは、またもう一歩違うレベルでの触れ合い方、入り込み方なのでしょうね。夫は山仕事をしている時はすごく疲れて帰って来るんですけれど、それでもなんていうか、生き生きとしていますよね。今日は休みたいってこともないし、疲れても消耗していないんですよね。都会にいる時はその日に帰れない日もありましたし、日々消耗していましたよね。

久保田さん:充実感はありますね。まだまだうまくいかないことも多いですけどね、技術的にももっとこうすればよかったとか思うことも多いですが、それは逆にまだ伸びしろがあるということで目標になりますし、「自分のやったことが目に見えて残っていく。」っていう達成感、やりがいは非常に大きいです。

Caféとの出会いは?

Caféにしている建物のオーナーさんとは、林業つながりで出会いがあり、この場所で山林業の話をしているときに、雑談の中で七海さんが「こんなCaféがあればいいのに。」と言った一言から始まったそう。

七海さん:移住前に四万十市を訪れた時、四万十川の見えるお店がほとんどなかったので意外でした。

ところが、ここに来た時に、「川を眺められる Café 」としてイメージしていた通りのたたずまいだったのに感動して、オーナーがおおらかな懐の大きい方なので「じゃあやってみたら?だめならやめたらええ。」との言葉に背中を押されて、やってみようかなって感じで。

コーヒーも全くの素人だったので、借りると決めてからの勉強でした。窯もあるし林業で出る薪もあったので、じゃ自家焙煎してみようかと、そこで山との繋がりも生まれますし、本当に巡りあわせというか、ご縁のようなものを感じていますね。

Caféをやる中で?

Caféのメニューは自分たちのできる範囲でと考えているから、コーヒーとケーキだけ。
開店日は春から夏は土日月の3日間、林業シーズンの秋から冬は日月の2日間と決めている。

久保田さん:予想以上にお客さんが来てくれて、嬉しい誤算でした。 Café は小規模でやって、そんなに人は来ないだろうから赤字にならない程度で良いと思っていたんです。

観光地としての四万十市を少し過少評価していましたね (笑)。

七海さん:本当に予想以上に人が来てくれて、皆さんにも良いと思っていただけているんだなって。

コーヒーをハンドドリップで淹れる時間が絶対的にかかるから、GWやお盆には行列になることもあって、申し訳ないと思います。回転率を上げる方法は沢山あるのでしょうが、やりたいことと、やりたいサービスがあるので、今はそちらを優先していますね。

それ以外にも前職がらみの在宅ワーク(主に翻訳関係)もしているという久保田さん。前職から誠実な生き方をしてこられたからこその今があるのだろう。

仲の良いお2人にも小さな意見の食い違いはあるが、その都度話し合っていると言う。

七海さん:方向性や価値観は大体一緒なんだと思う。林業に関しては、夫が優先。
Café は女性のお客さまが多いので、私の意見を優先させてもらっています。

久保田さん:お互いに協力していかないと生きていけないから、毎日がサバイバルです。どちらが欠けても Café ができないから良くも悪くも二人三脚ですね。お互いを大切にしないと日々成立しないっていうのが強い(笑)

帰りたくなる時は?

久保田さん:帰りたくなる時はないかな。東京に限らずいろんな空気を取り入れることが大事だと思うから、旅行にはいきますけどね。

七海さん:意外にも戻りたいとは思わないですね。

ただ、こっちにいてこっちの人間になることも大事だけど、移住者っていう第三者的な目も持ちつづけたい。完全に同化しちゃったら私たちがこちらに来た意味もなくなるかなって感じですね。

一カ月アメリカに行ったりして余裕があると思われるかもしれませんが、我々にとってはそれもここで生活していくうえで必要なことだったりもするので、改めて再確認できたり、解ることもある。

色んな意味で、余裕なんかないですよ(笑)

成功者と言われることに対しては?

久保田さん:「何をもって成功というのか?」本当に理想の生活からすると50~60点くらいかな。バランス的に Café の方が多くなっているのでもっと林業で見通しが立てられるようにしたいですね。林業で堂々と「四万十市で林業をやりましょう。」って言えるくらいになりたい。

七海さん:そうですね。林業だけで食べられるようになって、初めて成功と言っていいのかな。色んなことを組みあわせてやってますっていうのも暮らしとしてありだとは思うんですが、本来のあり方はそれでいいのかもしれないけれど成功とはいえないかな。やはり半分というところですね。「四万十市は林業で生きていけますよ。」って言えるようになったところが成功と言えるかも。

久保田さん:会社員をしていたことは、それはそれで意味があったと思うし、その時々を一生けんめいやってそれがあったから今があると思えるので。

七海さん:やっぱりいろんなことがつながっていて今かなと思うので、林業は生みの苦しみ辛抱の時期は今も続いていると思うし、辛抱していてぽろっと Café みたいな偶然の出会いがあったりするし、林業に関してはコツコツやっていくしかないのかなって。

辛抱の連続ですか?

辛抱というよりも・・暗中模索、そう、暗中模索なんですよね。

そう言って笑うお2人からは、悲壮な感じはなく、自分たちの生き方に誇りをもって目標に向かっているという清々しささえ感じられた。

自分たちにとって何をもって成功というのか?豊かさとは何なのか?

それを彼らはすでに自分の中に見つけている。

【まだまだ、ここから、これから】その覚悟が一歩を踏み出す力となり、チャンスを引き寄せていくのではないかと思う。